ホーム転落Q&A(微笑む学生のイラスト)

Q1:視覚障害者のホーム転落事故は年間どのくらい起きているのですか。

Q2:視覚障害がない人もホームから転落することがあると聞きます。障害のある人とない人で、転落事故の発生割合はどのくらい違うのですか?

Q3:視覚障害者の何割の人に転落経験があるのですか?

Q4:どの方向に歩いていて転落してしまうのですか?

Q5:線路と平行(長軸方向)に歩いていて転落するケースが63.5%を占めるということですが、その原因は何ですか?

Q6:だからホーム中央に点字誘導ブロックを敷設してほしいと訴えているのですか?

Q7:それでは、なぜ、ホーム中央に点字誘導ブロックがないのですか?

Q8:ホームの端にある黄色い点字ブロックは視覚障害者が歩く時に頼りにするものだと思っていたのですが、違うのですか?

Q9:最近、点字警告ブロックの内側に追加された1本の線は何ですか?

Q10:では、ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設すれば、完全に転落事故は防げるのですか?

Q11:ホーム中央には売店や立ち食い蕎麦屋、待合室があるところもありますが、その場合、誘導ブロックはどう敷設するのですか?

Q12:売店などを迂回する時に方向感覚を失うことはないのですか?

Q13:ベンチや看板もありますが、この場合はどうしますか?

Q14:階段やエレベータも迂回しなければならないのですか?

Q15:線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックを間違えることはないのですか?

Q16:ホームの幅が極端に狭いところもありますが、そこはどうしますか?

Q17:ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設するメリットはほかにありますか?

Q18:AIカメラがホーム端に接近した視覚障害者に警告音を発するという技術も開発されつつあるそうですが、これは有効ですか?

Q19:他にはどんな技術が開発されていますか?


Q1:

視覚障害者のホーム転落事故は年間どのくらい起きているのですか?

A:

国土交通省の調査によると、平成22年度から令和元年度の10年間で、わかっているだけで747件起きています。

年平均74.7件を1年365日で計算すると、全国のどこかで5日に1人の視覚障害者がホームから転落していることになります。また、この10年で21名の視覚障害者が亡くなっています。



Q2:

視覚障害がない人もホームから転落することがあると聞きます。障害のある人とない人で、転落事故の発生割合はどのくらい違うのですか?

A:

平成22年度から令和元年度までの10年間で日本全体では30676件、年平均3067.6件の転落事故が起きています。日本の全人口1億2千600万人で計算すると、約41,000人に1人です。一方、日本の視覚障害者数31万2千人を74.7件で割ると、約4,200人に1人。つまり、視覚障害者の転落率は、全国民の約10倍ということになります。

なお、視覚障害のない人の場合、転落事故の約5割はお酒に酔った方です。



Q3:

視覚障害者の何割に転落経験があるのですか?

A:

国土交通省が2020年度に行った調査によると、アンケートに回答した視覚障害者303人のうち109人(36.0%)に転落経験がありました。



Q4:

どの方向に歩いていて転落してしまうのですか?

A:

前述の調査によると、転落前に線路と平行長軸方向といいます)に歩いていた人が63.5%、線路に垂直(短軸方向)が36.5%となっています。

長軸方向に歩く人と短軸方向に歩く人のイラスト


Q5:

線路と平行(長軸方向)に歩いていて転落するケースが63.5%を占めるということですが、その原因は何ですか?

A:

主な原因は2つあります。

1)ホーム中央エリアを歩いている時に、無意識のうちに斜めに歩いてしまい、転落するということです。


浜辺でスイカわりを楽しむ子どもたち。目隠しをした少年は、スイカとは違う方向に歩いてしまっている。

子どものころに「スイカ割り」をしたことのある方は、思い出してみてください。あるいは、コースロープのないプールで目をつぶって泳げば、たいていはコースからずれてしまいます。その距離が長ければ長いほど、ずれが大きくなることからもご想像いただけるのではないでしょうか。

 国土交通省の抽出ヒアリング調査によると、57件中18件(31.6%)がこの原因によるものでした。

2)ホーム端にある警告用の点字ブロックを頼りに歩いている時に、人や柱を避けるため、線路側にずれて踏み外してしまうということです。前述の調査では57件中17件(29.8%)でした。


Q6:

だからホーム中央に点字誘導ブロックを敷設してほしいと訴えているのですか?

A:

その通りです。ホーム中央に点字誘導ブロックがあれば、触覚的な手掛かりを伝って歩けますので、斜めに歩いてしまうこともなくなるでしょう。また、ホーム端の点字警告ブロックを頼りに歩くのではなく、転落の危険性がもっとも低いホーム中央を歩けるようになるわけです。

ホームの端を歩く白杖を持った男性と-それをハラハラしながら見つめる女性のイラスト

ホームドアのないホームは、よく「欄干のない橋」にたとえられます。想像してみてください。スリルを楽しむ人は別にして、欄干のない橋の「端」を歩きたい人はいるでしょうか?一休さんではありませんが「この橋、渡るべからず」ではなく、「この端、渡るべからず」ということです。同じことが道路上の横断歩道にもいえるわけですが、一部の横断歩道には、真っすぐ歩けるよう、中央に「エスコートゾーン」が敷設されているところもあります。

横断歩道の真ん中に、足でわかるように凹凸があります。

エスコートゾーンの敷設された横断歩道



Q7:

それでは、なぜ、ホーム中央に点字誘導ブロックがないのですか?

A:

それは、国土交通省のバリアフリー整備ガイドラインで、視覚障害者がホーム長軸方向に移動することは想定されていないことに原因があります。ガイドラインでは点字誘導ブロックとは「可能な限り最短経路により敷設する」と定められており、階段から最も近い車両のドアに誘導するだけで、それ以上長軸方向に移動することは考えられていないということです。しかし、乗車駅と降車駅で階段の位置が異なる限り、実際はどちらかの駅でホーム上を移動しなければなりません。



Q8:

ホームの端にある黄色い点字ブロックは視覚障害者が歩く時に頼りにするものだと思っていたのですが、違うのですか?

A:

違います。
点字ブロックには2つの種類があります。
1つは、線状のもので、直線の方向に「進め」を意味する「誘導」のためのブロック。もう1つは点状で、ここから先は危険なので「止まれ」ということを知らせるための「警告」ブロックです。

ホームの端に敷設された点字ブロックは、
点状の警告ブロック。つまり、ここから先は危険だということを意味しています。沿って歩くためのブロックではないのです。

誘導ブロックと警告ブロックのイラスト


Q9:

最近、点字警告ブロックの内側に追加された1本の線は何ですか?

警告ブロックと内方線の写真

警告ブロックの横にあるのが内方線

A:

「内方線(ないほうせん)」です。視覚障害者が、警告ブロックのどちらがホーム側でどちらが線路側なのかを触覚的にわかるようにするためにつけられましたが、これに沿って歩くためのものではありません。ホーム転落対策の一つとして、この数年で、敷設されたものです。しかし残念ながら、近年起きたホーム転落事故現場を確認すると、そのほとんどで内方線は敷設されていました。内方線をつけるだけでは、事故がなくなるわけではないことがわかります。



Q10:

では、ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設すれば、完全に転落事故は防げるのですか?

A:

残念ながら完全とは言えません。転落事故の中には、見間違い・聞き間違いにより、電車がホームに止まっていると勘違いしてホームから転落するケースもあります。このような事故を含め、事故を完全に防げるのはホームドアだけだと思います。ただ、ホームドアが設置されているのは、令和元年度末時点で、全国の19,951番線のうち、1,953番線(9.8%)です。つまり、90.2%のホームには転落のリスクが残されているということです。

 国土交通省は、これまで年間100番線ずつホームドアを整備してきましたが、これからはその数を倍にし、年間200番線ずつ整備していくことを公表しました。ただ、それでも1日の利用客が1万人以上の駅に整備されるのに24年、全国すべての駅に整備されるまでに85年かかるという計算になります。

 今の点字ブロックの敷設状況では、視覚障害者はホーム端の点字警告ブロックを頼りに歩かざるを得ないわけですが、これが、ヒヤリハットになっていると考えられるわけです。ハインリッヒ(ヒヤリハット)の法則とは、1:29:300という比のことですが1つの重大事故の背後には、29の軽微な事故と300のヒヤリハットが存在しているということです。年平均2.1人の視覚障害者が転落事故で死亡し、74.7件の転落事故が発生しています。重大な死亡事故を起こさないためには、軽微な事故をなくす、そのためには、ホーム端を歩くというヒヤリハットを減らし、ホーム中央をまっすぐ歩けるような歩行動線を確保していかなければならないということです。



Q11:

ホーム中央には売店や立ち食い蕎麦屋、待合室があるところもありますが、その場合、誘導ブロックはどう敷設するのですか?

売店の手前でいったん誘導ブロックは終わり、続けて警告ブロックがTの字に3枚敷かれていったん終わり。売店の先に警告ブロックが3枚あり、誘導ブロックがまた伸びています。

A:

売店などがある場合、階段から売店までは誘導ブロックを敷き、売店の手前でいったん打ち切ります。そして売店を超えたところから再びホーム中央に誘導ブロックを敷設します。売店の周りには誘導ブロックは敷きません。ちょうど団子の串のように、ホーム中央の敷設可能なところに誘導ブロックを敷くということです。売店等を迂回する時は、白杖で売店等の壁をつたって歩くことができますので、触覚的な手掛かりが途切れるというわけではありません。また、実際、ホーム上の売店やそば屋は年々、少なくなってきているのが現状です。



Q12:

売店などを迂回する時に方向感覚を失うことはないのですか?

A:

ほとんどないと言ってよいと思います。視覚障害者が白杖を使って一人で歩く場合、大抵目的地までの動線を頭の中に描いています。これを「メンタルマップ」といいます。一人で歩けるようになるまでには、動線上の触覚的な情報や音声情報とメンタルマップを結びつけ、白杖を使いながら移動できるように訓練するわけです。ホーム上の売店等も同じで、むしろ自分の位置を再確認するためのランドマークとして利用できるともいえます。

 成蹊大学名誉教授の大倉元宏氏の調査によると、「コ」の字の迂回で方向が分からなくなるというよりは、むしろ売店等を迂回した後、その先に行こうとするところで方向がわからなくなる人が多いため、構造物の先でこそ、中央の触覚マーカーがより有効であるということです。

 そもそも視覚障害者の家から駅までの動線が一直線ということはありません。路上駐車している車を「コ」の字のように迂回することもあります。駅の構内を見ても「コ」の字以上に複雑なルートはいくらでもあります。

 また、売店の近くに限らず、万一自分の立っている場所が分からなくなったら、周囲の人に援助を依頼することも大切です。



Q13:

ベンチや看板もありますが、この場合はどうしますか?

A:

下の写真は、実際にホーム中央に誘導ブロックが敷設されている駅の例です。このホームにもベンチや看板はありますが、ホーム中央誘導ブロックとは重ならない場所に設置されています。視覚障害者にとってのホーム上の安全な歩行動線の確保は命に関わる問題ですので、移設可能なベンチ等は、可能ならば誘導ブロック上ではないところに設置していただけることを希望します。

ホームの真ん中に誘導ブロックが一本、まっすぐに伸びています。

東京メトロ護国寺駅ホーム



Q14:

階段やエレベータも迂回しなければならないのですか?

A:

ホームによっては、エレベータや複数の階段がありますが、迂回を避けるためには、ホーム上の移動を少なくするという視点が必要です。これは視覚障害者に限らずだれでもそうだと思いますが、乗車時には降車駅の階段にもっとも近い車両のドアに乗り込みたいものです。その時、複数の階段がある場合、ほとんどの人は、目標のドアにもっとも近い階段を利用すると思います。そうすれば、ホーム上の移動も最短距離に抑えられますし、別の階段を迂回する必要はなくなります。



Q15:

線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックを間違えることはないのですか?

A:

失明直後や感覚鈍麻がある人を除き、ほとんどないといってよいと思います。点状ブロックも線状ブロックもJIS(日本工業規格)によって形状が定められています。

現在の形状に決定する際に、多くの視覚障害者が実証実験に参加し、これなら認識できるという確認を経てJIS化されたという経緯があります。

 



Q16:

ホームの幅が極端に狭いところもありますが、そこはどうしますか?

A:

国土交通省の駅の設置基準では、ホーム幅は中央で少なくとも3m、先端でも2m以上と定められています。また、点字警告ブロックはホーム端から80cm~1mのところに設置することになっています。警告ブロックは30cm、内方線付きの場合は40cm幅です。

つまり、ホーム端から1m10cm~1m40cmに警告ブロックが敷設されており、島式ホームでは左右合わせて2m20cm~2m80cmが危険領域とされているわけです。ですので、そもそも狭いホームはすべての乗客にとって移動も待機もスペースがかなり限られているといえます。よって、白杖を振った時に警告ブロックに触れてしまうような極端にホームが狭いところでは、誘導ブロックを打ち切り、降車駅で移動するという歩行経路を考えることが妥当だと思います。

 もっともこのようなホームは視覚障害者に限らず、だれにとっても危険といえますので、ホームドアの設置を優先していただきたいと思います。現に阪急電鉄は、ホーム幅の狭い春日野道(かすがのみち)駅に優先的にホームドアの設置を進めています。



Q17:

ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設するメリットはほかにありますか?

A:

あります。国土交通省の調査では、電車から降りて階段に向かっている時に反対側のホームから転落するケースが57件中6件(10.5%)報告されています。電車から降り、体の向きを線路と平行に90度変えた時、階段は斜め前方にあることになります。この斜めの角度を少し鈍角方向に誤ったら、反対側のホームから斜めに転落してしまうということです。しかし、もしホーム中央に誘導ブロックがあれば、電車から降りて白杖をスライドさせながら、数歩先にある誘導ブロックを確認できます。そこで体の向きを90度変え、鳥の鳴き声が出ている階段に向かってまっすぐ歩けばよいということになります。

 つまり、中央に点字誘導ブロックがあれば、国土交通省が抽出調査した57件のうち、長軸方向の35件と短軸方向の6件を合わせた41件(71.9%)の転落事故が防げた可能性があるということです。



Q18:

AIカメラがホーム端に接近した視覚障害者に警告音を発するという技術も開発されつつあるそうですが、これは有効ですか?

A:

とても有効だと思います。但し、現在の点字ブロックの敷設状態では、ホーム端の点字警告ブロック沿いを歩いている視覚障害者も少なくありませんので、警告音が頻繁に鳴ってしまう可能性があります。

ホーム中央に点字誘導ブロックがあれば、ホーム端に接近することが少なくなりますので、AIカメラとホーム中央の誘導ブロックを同時に取り入れてもらえれば、新技術のメリットが最大限に活かせると思います。 



Q19:

他にはどんな新技術が開発されているのですか?

A:

改札を通過した視覚障害者をAIカメラが検知し、駅員に知らせるという技術も開発されつつあります。しかし、これはしらせを聞いた駅係員がすぐに駆けつけられることが前提になります。今、全国の48%の駅が無人駅で、今後も増加が予想されます。また、駅の事務所に人がいても、改札付近は無人であることも増えています。この技術が活きるかどうかは、駅員の確保が鍵を握るといえます。

 

 (参考記事)【朝日新聞】

駅改札にAI、視覚障害者を検知 ホーム転落防止へ実験(2021年3月16日)



イラスト/かたおか朋子(無断転載を禁じます)