Q1:視覚障害者のホーム転落事故は年間どのくらい起きているのですか。
Q2:視覚障害がない人もホームから転落することがあると聞きます。障害のある人とない人で、転落事故の発生割合はどのくらい違うのですか?
Q5:線路と平行(長軸方向)に歩いていて転落するケースが63.5%を占めるということですが、その原因は何ですか?
Q6:だからホーム中央に点字誘導ブロックを敷設してほしいと訴えているのですか?
Q7:それでは、なぜ、ホーム中央に点字誘導ブロックがないのですか?
Q8:ホームの端にある黄色い点字ブロックは視覚障害者が歩く時に頼りにするものだと思っていたのですが、違うのですか?
Q9:最近、点字警告ブロックの内側に追加された1本の線は何ですか?
Q10:では、ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設すれば、完全に転落事故は防げるのですか?
Q11:ホーム中央には売店や立ち食い蕎麦屋、待合室があるところもありますが、その場合、誘導ブロックはどう敷設するのですか?
Q12:売店などを迂回する時に方向感覚を失うことはないのですか?
Q15:線状の誘導ブロックと点状の警告ブロックを間違えることはないのですか?
Q16:ホームの幅が極端に狭いところもありますが、そこはどうしますか?
Q17:ホーム中央に点字誘導ブロックを敷設するメリットはほかにありますか?
Q18:AIカメラがホーム端に接近した視覚障害者に警告音を発するという技術も開発されつつあるそうですが、これは有効ですか?
子どものころに「スイカ割り」をしたことのある方は、思い出してみてください。あるいは、コースロープのないプールで目をつぶって泳げば、たいていはコースからずれてしまいます。その距離が長ければ長いほど、ずれが大きくなることからもご想像いただけるのではないでしょうか。
国土交通省の抽出ヒアリング調査によると、57件中18件(31.6%)がこの原因によるものでした。
2)ホーム端にある警告用の点字ブロックを頼りに歩いている時に、人や柱を避けるため、線路側にずれて踏み外してしまうということです。前述の調査では57件中17件(29.8%)でした。
ホームドアのないホームは、よく「欄干のない橋」にたとえられます。想像してみてください。スリルを楽しむ人は別にして、欄干のない橋の「端」を歩きたい人はいるでしょうか?一休さんではありませんが「この橋、渡るべからず」ではなく、「この端、渡るべからず」ということです。同じことが道路上の横断歩道にもいえるわけですが、一部の横断歩道には、真っすぐ歩けるよう、中央に「エスコートゾーン」が敷設されているところもあります。
エスコートゾーンの敷設された横断歩道
警告ブロックの横にあるのが内方線
残念ながら完全とは言えません。転落事故の中には、見間違い・聞き間違いにより、電車がホームに止まっていると勘違いしてホームから転落するケースもあります。このような事故を含め、事故を完全に防げるのはホームドアだけだと思います。ただ、ホームドアが設置されているのは、令和元年度末時点で、全国の19,951番線のうち、1,953番線(9.8%)です。つまり、90.2%のホームには転落のリスクが残されているということです。
国土交通省は、これまで年間100番線ずつホームドアを整備してきましたが、これからはその数を倍にし、年間200番線ずつ整備していくことを公表しました。ただ、それでも1日の利用客が1万人以上の駅に整備されるのに24年、全国すべての駅に整備されるまでに85年かかるという計算になります。
今の点字ブロックの敷設状況では、視覚障害者はホーム端の点字警告ブロックを頼りに歩かざるを得ないわけですが、これが、ヒヤリハットになっていると考えられるわけです。ハインリッヒ(ヒヤリハット)の法則とは、1:29:300という比のことですが1つの重大事故の背後には、29の軽微な事故と300のヒヤリハットが存在しているということです。年平均2.1人の視覚障害者が転落事故で死亡し、74.7件の転落事故が発生しています。重大な死亡事故を起こさないためには、軽微な事故をなくす、そのためには、ホーム端を歩くというヒヤリハットを減らし、ホーム中央をまっすぐ歩けるような歩行動線を確保していかなければならないということです。
ほとんどないと言ってよいと思います。視覚障害者が白杖を使って一人で歩く場合、大抵目的地までの動線を頭の中に描いています。これを「メンタルマップ」といいます。一人で歩けるようになるまでには、動線上の触覚的な情報や音声情報とメンタルマップを結びつけ、白杖を使いながら移動できるように訓練するわけです。ホーム上の売店等も同じで、むしろ自分の位置を再確認するためのランドマークとして利用できるともいえます。
成蹊大学名誉教授の大倉元宏氏の調査によると、「コ」の字の迂回で方向が分からなくなるというよりは、むしろ売店等を迂回した後、その先に行こうとするところで方向がわからなくなる人が多いため、構造物の先でこそ、中央の触覚マーカーがより有効であるということです。
そもそも視覚障害者の家から駅までの動線が一直線ということはありません。路上駐車している車を「コ」の字のように迂回することもあります。駅の構内を見ても「コ」の字以上に複雑なルートはいくらでもあります。
また、売店の近くに限らず、万一自分の立っている場所が分からなくなったら、周囲の人に援助を依頼することも大切です。
国土交通省の駅の設置基準では、ホーム幅は中央で少なくとも3m、先端でも2m以上と定められています。また、点字警告ブロックはホーム端から80cm~1mのところに設置することになっています。警告ブロックは30cm、内方線付きの場合は40cm幅です。
つまり、ホーム端から1m10cm~1m40cmに警告ブロックが敷設されており、島式ホームでは左右合わせて2m20cm~2m80cmが危険領域とされているわけです。ですので、そもそも狭いホームはすべての乗客にとって移動も待機もスペースがかなり限られているといえます。よって、白杖を振った時に警告ブロックに触れてしまうような極端にホームが狭いところでは、誘導ブロックを打ち切り、降車駅で移動するという歩行経路を考えることが妥当だと思います。
もっともこのようなホームは視覚障害者に限らず、だれにとっても危険といえますので、ホームドアの設置を優先していただきたいと思います。現に阪急電鉄は、ホーム幅の狭い春日野道(かすがのみち)駅に優先的にホームドアの設置を進めています。
あります。国土交通省の調査では、電車から降りて階段に向かっている時に反対側のホームから転落するケースが57件中6件(10.5%)報告されています。電車から降り、体の向きを線路と平行に90度変えた時、階段は斜め前方にあることになります。この斜めの角度を少し鈍角方向に誤ったら、反対側のホームから斜めに転落してしまうということです。しかし、もしホーム中央に誘導ブロックがあれば、電車から降りて白杖をスライドさせながら、数歩先にある誘導ブロックを確認できます。そこで体の向きを90度変え、鳥の鳴き声が出ている階段に向かってまっすぐ歩けばよいということになります。
つまり、中央に点字誘導ブロックがあれば、国土交通省が抽出調査した57件のうち、長軸方向の35件と短軸方向の6件を合わせた41件(71.9%)の転落事故が防げた可能性があるということです。
改札を通過した視覚障害者をAIカメラが検知し、駅員に知らせるという技術も開発されつつあります。しかし、これはしらせを聞いた駅係員がすぐに駆けつけられることが前提になります。今、全国の48%の駅が無人駅で、今後も増加が予想されます。また、駅の事務所に人がいても、改札付近は無人であることも増えています。この技術が活きるかどうかは、駅員の確保が鍵を握るといえます。
(参考記事)【朝日新聞】
駅改札にAI、視覚障害者を検知 ホーム転落防止へ実験(2021年3月16日)
イラスト/かたおか朋子(無断転載を禁じます)
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